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苔について

環境に適応するための苔の戦略

池田 将人
AUTHOR 池田 将人

植物の生体を説明するうえで、「戦略」という言葉で表現されることがあります。
この場合の戦略とは、それぞれの種が特定の環境下で最大限効率的に生活し
繁殖するということになります。
 
 
コケ植物も含め植物は他の種がやって来る前に
できるだけ素早くその場所を占領し居座り続けること
そして自分の子孫でいっぱいにすることが大切になってきます。

苔は生きる環境に適応するため、環境ごとに様々な戦略がみられます。
 
 
一年生の苔は不安定
 
 
一般的に苔は一年中緑と思われていますが
冬枯する「一年生」の種が存在します。

一年生の苔は珍しいものではなく
日本に生息しているだけでもかなりの種類があります。

西日本の田んぼに生えている葉状体性の苔類ウキゴケ属の一種で
カンハタケゴケは晩夏頃に胞子が発芽して翌年の春先に一生を終える
数ヶ月間しか生きることのない短命の種類もあります。

外国の種類でリクシア・ニグロスクアマータという種は
胞子の発芽から二~三週間で最初の生殖器官をつくり
六~八週間で成熟した胞子をつくって枯れる短命のものがあります。
 
 

 
 
一年生のコケ植物は成長の時間が限られるため
そのほとんどは小型の種類に限られます。

そのため、あちらこちらで生息しているのですが
簡単にに見過ごしてしまい、なかなか私達の目にふれることはありません。

彼らを見つけるためには、刈り入れの終わった田んぼや
水を落とした溜池、干上がった地面やひび割れた土の隙間
などが絶好の観察場所です。

これらの場所は、光をめぐって競争する相手が少ないため
背の低い苔でも十分に光合成を行うことができるからです。
 
 
一年生のコケ植物は、短い一生のあいだに一回だけ
一生の最後の段階になって胞子嚢をつくり
胞子を飛ばした後は枯れてしまいます。

休眠によって成長に不適切な時期をやり過ごすことができるため
胞子は一般の植物体に比べ乾燥などの厳しい条件に長く耐えることができます。

これらにより、一年生のコケ植物は生存に不適な状況が
定期的に訪れる不安定な環境に生えるのに都合がよいことになります。
 
 
多年生の苔は安定的
 
 
一方、森林の林床など安定した環境には何年も生き続け
毎年のように胞子嚢をつくる種類が多く見られます。

蘚類のイワダレゴケは同じ個体が80年以上生き続け
なかには石灰岩性の蘚類オウムゴケが2800年
という年齢が推定された報告があります。


 
 
いずれにせよ、「一年生」でも「多年生」でも植物にとって大切なことは
他の種がやって来る前にできるだけ素早くその場所を占領し
居座り続けること、そして自分の子孫でいっぱいにすることです。

生きる環境が「不安定」なのか「ずっと安定」に対する適応の違いが
命の長さの差ということがわかります。
 
 
このように、コケ植物の生活様式の工夫つまり戦略は
どうすれば最も効率的に光合成し栄養分を蓄積できるか
どのタイミングで生殖器官をつければ最も確実に受精ができるか
効率的に胞子を飛ばすためにはいつ胞子嚢をつくればよいか
など様々な戦略があります。

 
 
まとめ

・苔は生きる環境に適応するため、環境ごとに様々な戦略がある
・苔は一年生と多年生がある
・環境が不安定か安定なのかによって命の長さが異なる